国際ビジネスハブ
地域ハブの地位を確立するタイ
戦略的立地が多国籍企業を惹きつける
グローバル企業がタイに拠点を構えるメリットはどのような点にあるのか。
タイ投資の魅力やタイビジネスの最新事情をシリーズで伝える。
多国籍企業のアジアにおける玄関口日清食品ホールディングスや本田技研工業といった名だたる日本の大企業が、タイにアジアの地域拠点を構えている。
その最大の理由が、東南アジア諸国連合(ASEAN)の中心に位置する立地の優位性だ。継続的な物流ネットワークの開発が進められており、東南アジアのみならず、中国や南アジアともつながる戦略的立地への評価は高い。ASEAN自由貿易地域(AFTA)のメンバーであるとともに、13カ国・地域と結ぶ自由貿易協定が国境を越えたビジネスを支える。2020年11月には 東アジア地域包括的経済連携(RCEP)協定の交渉プロセスが完了。日本政府も2021年6月25日に本協定の受諾を閣議決定しており、日タイ間を含む海外市場へのアクセスが一段と向上することが期待されている。多国籍企業のアジアにおける玄関口として、タイは確固たる地位を築いているのだ。
接続性に優れたインフラを有するタイは、世界銀行によるロジスティクス・ パフォーマンス指数2018において ASEAN諸国でシンガポールに次ぐ2 位、アジアで7位の評価を獲得している。さらなる充実を目指し、タイ政府は交通インフラ開発戦略2015-2022を推進。この戦略の下には110 のプロジェクトがあり、総投資額は約1兆9,000億バーツ(約6兆6,000 億円、1バ ーツ=約3.5円)に上る。主要な計画には、① 都市間鉄道ネットワークの開発、② バンコクとその周辺の交通問題を改善するための公共交通機関の開発、③ 主要な生産拠点と近隣諸国を結ぶ高速道路の改善、④ 水上輸送ネットワークの開発、⑤ 航空輸送サービスの容量増加が含まれる。特に、鉄道拡張プロジェクトは最優先事項であり、複線鉄道システムを251㎞ から3,840㎞ に拡張する計画だ。これらの開発が着実に進むことで、国際ビジネスハブの強みはより確かなものになることだろう。
加えて、強力なサプライチェーンもタイの強みだ。食品業界では10,000 社以上、自動車業界では2,000社以上の企業がある。電気電子、石油化学、 農業など多くの主要産業にも同様のサプライチェーンがあり、多国籍企業が大型投資に踏み切る動機のひとつとなっている。
労働力の観点で特筆すべきは、日本とタイが築いてきた良好な関係が人材育成の連携にも 及んでいることだ。 2007年に開校した泰日工業大学を皮切りに、2015年には自動車人材育成学院、2018年には高専機構によるタイ高専コースが開講した。泰日工業大学はこれまで5,000名を超える人材を社会に輩出しており、そのうちの半数以上は日本企業へ就職。高度な技術スキルを備えた人材の豊富さもタイの魅力だ。
IBCで高まる統括拠点としての魅力
タイ政府は、国内産業の成長に資する外国企業の投資に対し、全面的なサポートを用意している。各種税免除などの恩典を提供するほか、税制以外でも様々な優遇措置を設けるなど、 充実した投資奨励策が特徴だ。
新たな投資奨励策である「国際ビジネスセンター(IBC)」に分類されれば、政府が授与 する特権の対象となる。具体的には、法人税および個人所得税の減税、研究開発および訓練 目的での機械の輸入税の免除、スマートビザを含む一連のインセンティブを享受できる。地域統括事業の拠点として、タイは単なる立地条件を超えた戦略的優位性を持つ投資先へと進化しているのだ。
タイ投資委員会(BOI)によれば、2015年以降、タイに地域またはグローバル本社を置く 多国籍企業の数は 329社を超える。そのうち132社以上は日本企業であり、最多となっている。タイは在留邦人が多く、東南アジアでは2位のシンガポールの2倍にあたる約7.2万人が居住。日本語対応が可能な病院や日本人学校、多くの日本食レストランがあるほか、ゴルフなどのレジャーも充実しており、駐在員にとっ て申し分ない生活環境が整っている。対タイ投資の長い歴史が築いてきた日本人コミュニティの安心感も相まって、タイに地域本社を構える日本企業は今後も増えていくに違いない。
進出企業に聞く わが社のタイビジネス
日清食品ホールディングス
2020年5月に戦略的地域統括会社を設置当社がタイに進出したのは27年前の 1994年、「カップヌードル」の生産販売から開始 しました。2020年現在、タイの即席麺の総需要は37億食となり、国別では9番目の大きな 市場です。
2020年5月、東南アジアでの経営および 技術の統括をタイで行うためにRHQ-Asia を設立しました。タイは製造業に必要なインフラ(人、モノ、技術)が集積し、かつ東南アジア各国へのアクセスも良好なことから、 RHQ設置に理想的な国と考えました。 ASEANの中でシンガポール、マレーシアに次ぐ高い購買力を持つタイは、販売市場としても魅力的です。
タイにRHQ設置を決定するにあたり、新型コロナウイルスの影響を懸念しました。しかし、BOIはオンラインでの申請や情報入手、コミュニケーションの手段が充実しており、計画から1年程度でスムーズに準備することができました。
2021年はカップヌードル誕生50周年となります。アジア地区事業のさらなる発展の礎となるRHQ-Asiaの機能を利用し、カップヌードルを通じて東南アジアの消費者の食生活をさらに豊かにしていきたいと考えています。
本田技研工業
80カ国以上に輸出する一大生産拠点現在、アジア・大洋州本部の地域本社を構えるタイに初めて進出したのは、1964年にさかのぼります。ベルギーに次ぐ2番目の本格的な海外進出であり、二輪、四輪、パワー プロダクツの順に輸入販売および生産を広げていきました。1994年には四輪、1997 年には二輪の研究所を設立。販売や生産のみにとどまらない、現地に根差した事業展開 を行っていることが特徴です。
その背景には、タイ政府による自動車産業政策の一貫性があります。排ガス規制や課税の仕方、投資に対する恩典などの方針が安定しており、安心して投資できる土壌があると感じます。海外では工場建設などの分かりやすい投資が歓迎されがちですが、研究所のような付加価値の創造を目指す投資にも理解があり、BOIはその設立のために尽力してくれました。投資させて終わりでなく、その後のビジネスが軌道に乗るよう一緒に取り組んでくれています。
現在では、タイから輸出するパワープロダクツは80カ国、二輪および四輪は30カ国以上に上り、世界における一大生産拠点となっています。今後もより付加価値の高い製品開発に努め、タイとともに成長していきたいと考えます。
アジア・大洋州本部長
五十嵐 雅行氏
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