タイ政府は2017年に、デジタル・スマートエレクトロニクス、農業・バイオテクノロジー、医療・ヘルスケア産業など先端産業への海外投資を促す新経済モデル「Thailand 4・0」を打ち出した。これらのハイテク産業を促進するための対象地域EEC(東部経済回廊)で人材育成を図る企業は、通常恩典より業種に応じて2年間の法人税免税や3年間の法人税50%減税といった追加優遇措置も受けられる。人材育成は、「Thailand 4・0」のキーファクター。タイ投資委員会(BOI)は企業と教育訓練機関との連携を図り、一連の施策を通じて人材育成に努めている。高度人材の育成・輩出に力を注ぐ企業の事例を紹介する。いった追加優遇措置も受けられる。人材育成は、「Thailand 4・0」のキーファクター。タイ投資委員会(BOI)は企業と教育訓練機関との連携を図り、一連の施策を通じて人材育成に努めている。高度人材の育成・輩出に力を注ぐ企業の事例を紹介する。
オリンパスタイランド 高度人材育成で医療水準の引き上げに貢献
消化器内視鏡の分野で世界トップシェアを誇るオリンパスは1999年にタイに進出した。同国で顧客にきめの細かなアフターサービスを提供し、内視鏡医療の発展とタイの社会的課題の解決を図ることが目的だ。
「タイはメコン地域全体のハブであり、経済規模が大きい。ビジネス基盤も整備されてい る。その一方で、内視鏡を使える医師は人口10万人に対して1人未満と少ない。ポテンシャルの高さが進出の決め手になった」(マネージングダイレクターの山本征生氏)
医療事業の売り上げはすでに設立時の数十倍規模。7人でスタートした従業員の数も240人に達している。2016年には、内視鏡関連の教育トレーニングセンター(T―TEC)を開設した。施設を開設し、業容を拡大する際にはBOIからの助言を受け、手続きが円滑に進められたという。
T―TECは、タイの中核病院に対して大分大学と共同で手技教育を実施し、医師の育成を通じて医療水準の向上に貢献することを目的とした国際協力機構(JICA)の「アドバンス内視鏡外科手術普及促進事業」の研修施設として活用された。同時に、同社従業員の研修の場でもある。製品を通して医 療技術を普及させていくには従業員の高度な知識やノウハウが欠かせないからだ。
「研修やOJTを通してリーダー格のメンバーが着実に育ってきた。タイの人材は責任感が強く、ロイヤルティーも高い。チームワークを重視する点も日本人と似ている。課題を見つけ皆で解決する風土も根付いてきた」と山本氏はタイの人材を評価する。今後は、さらに高度人材の育成を進め、タイを含む周辺諸国の医療従事者を対象にした教育やトレーニングを強化していく計画だ。
スミポン 競争力拡大に直結する技術者を育成
タイ政府は「タイランド4・0」の中核政策として、2016年からEEC構想を進めている。このEECの中心部に位置するラヨーン県に、技術者養成のアカデミー、SIMTecを開校したのが、計測機器や切削工具・工作機械などを扱うタイのモノづくり関連総合商社大手、スミポンだ。
約10万アイテムものラインアップの99%は日本製品。1988年の創業以来、日本の優れた技術や製品を提供してきた同社は製造業の底上げを図るため、SIMTecを立ち上げた。
「『タイランド4・0』の実現には高度な技術や知識を備えた人材育成が急務。日系の大手工作機械や計測機器、工具メーカーなど18社に協力を呼びかけたところ快諾いただけた。14の政府機関や民間の組織とも連携した官民一体のアカデミーだ」(エグゼクティブダイレクターのトーンポン・ウンラパトーン氏)
約1万平方㍍におよぶ敷地内には7つのラーニングステーションが導入された。受講生はテクノロジーパートナーである日系18社からレンタルした工作機械や設備を使ってCAMやCNCプログラムなど実践的なスキルを習得し、日本の生産管理や品質管理といったソフトスキルも学んでいく。
「アップスキル、リスキル、エクイップスキルを可能とした。Io T(モノのインターネット)の専門家養成コースなど多彩なコースを用意している。ポストCOVID―19(新型コロナウイルス)の時代に必須のスキルが習得できるカリキュラムも充実させたい」
EECを軌道に乗せるには日系をはじめとする外国企業の誘致と技術者の育成が不可欠。生産効率を上げ、競争力拡大に直結する人材を養成するSIMTecが果たす役割は大きい。